2021年9月23日木曜日

住宅クライシス タワマン管理契約と修繕工事の深い関係

 ダイナミックな眺望や充実した共用施設などが人気のタワーマンション。
容積率や日影規制を緩和した平成9年の建築基準法改正によって都市部を
中心に開発が加速し、棟数は全国で1300を超えた。

新築ラッシュが今も続く一方で、築年数が経過し、管理組合と管理会社と
の関係性に亀裂が生じたマンションも少なくない。管理会社では近年、売
り上げ拡大よりも利益を重視した経営にシフトしており、新築時から続い
た管理委託契約を打ち切る事態も起きている。

■4年前の6・6倍に

「スタッフが疲弊し、信頼関係を基にした業務の遂行が困難な状況になった」
 西日本の部屋数200戸超、30階超のタワーマンションでは新築から十
数年が過ぎた5月下旬、管理会社から8月末での管理委託契約の終了が通告
された。管理会社は、現地の開発を実施した大手デベロッパーの関連会社。
こうした契約更新〝拒否〟の申し出は近年相次ぐ。 マンション業界の調査や
コンサル業務などを行うNPO法人「マンション管理支援協議会」(東京)
によると、ある大手管理会社において、今年3月末までの1年間で契約打ち
切りとなった件数は、戸数ベースで3万7千戸を超え、4年前の6・6倍に
伸びた。 背景には、管理人や清掃員の人件費などが高騰しても、管理委託費
の値上げを組合側に受け入れさせることが簡単ではなく、管理委託業務だけ
では十分な利益を得ることが困難という事情がある。

■修繕工事に思惑

管理会社のもう一つの収益の柱は、組合側から受注する修繕工事。同NPO
によると平成28年度、ある財閥系大手管理会社では総売上高約442億円
のうち約69%が修繕工事の売り上げで占められ、工事依存の傾向は現在も
続く。 実際、このマンションでも昨年以降、老朽化した設備の補修などを目
的に大規模修繕工事が計画され、管理会社側は2・3億円余りの予算を提示
していた。
ところが、組合側では理事会が中心となって独自に元請け業者を公募。管理
会社とは別の業者が約1・8億円で受注する見通しとなった。前後して今年
春、理事会に反発した住民による役員の解任騒動が勃発。結果的に役員の残
留が決まったが、まもなくして管理委託の終了が通告された。

契約打ち切りと工事との関連について、取材に対し管理会社側は「長期修繕
計画書を作成して工事予算を提示しただけで、見積もり取得など工事の受発
注業務には一切関与していない」と説明。ただ、戸数が多いタワーマンショ
ンの工事では動く金額も大きい。
ある業界関係者は「工事を受注できないのなら、無理をしてまで契約を続け
る必要がないと、管理会社が判断することは一般的にはある」との見方を示す。

■カスハラで

「選別」も 国土交通省が公開する管理委託契約の指針「標準管理委託契約
書」には管理会社と組合側の一方が3カ月前までに解約を申し入れれば契約
を終了することが可能、との条文が設けられている。 多くの個別契約にも
採用される条文だが、大阪でコンサル業務を行うマンション管理士の男性は
「契約の終了を通告された管理組合が他社を探す時間が足りない」として改
正を訴える。
ある管理会社の幹部は、「こうした『3カ月前』ルールを背景に契約終了を
ちらつかせ、管理組合側に厳しい条件を受け入れさせることもある」とした
上で、次のように説明する。

「最近では、管理会社の担当者が住民側に無理難題を突きつけられる『カス
タマーハラスメント
』が増えた。夜中にクレーム処理に追われたり、怒鳴り
つけられたりして、心身をすり減らすこともある。

業界は担当者不足に陥っており、こうした理不尽な行為が契約先の『選別』
につながっていることも知ってもらいたい」(岡嶋大城
                          「産経新聞」

2021年9月14日火曜日

「相続登記の義務化」空き家所有者の76%が知らない実態

 空き家が増加している問題が指摘されている。その要因のひとつに不動産登記が
されていないことが挙げられているが、カチタスが全国の空き家所有者(有効回
答963人)に調査をしたところ、「相続登記の義務化」についての認知度はわずか
2割程度だった。

空き家所有者の76.8%は「相続登記の義務化」を知らない

「相続登記」とは、相続により不動産を取得したときに、不動産名義を相続人に
変更すること。
一見当たり前のことのようだが、これまでは義務ではなく任意だったので、すぐ
に活用しない場合などでは相続登記をしないということが行われてきたのだ。

カチタスが空き家所有者に、相続登記の義務化を知っているか聞いたところ
「知っている」は23.2%しかおらず、「知らない」という人が大半だった。

(出典:カチタス「第1回 空き家所有者に関する全国動向調査(2021年)」)

(出典:カチタス「第1回 空き家所有者に関する全国動向調査(2021年)」)

では、空き家の相続について家族と話しているか聞いたところ、「家族と話して
いない」人が66.7%だった。空き家の登記情報や相続後の使用もしくは処分方法
についてあいまいなままで相続となると残る家族に迷惑がかかることもあるので
空き家をどうするかを家族できちんと話し合っておきたいところだ。

(出典:カチタス「第1回 空き家所有者に関する全国動向調査(2021年)」)

(出典:カチタス「第1回 空き家所有者に関する全国動向調査(2021年)」)

  所有者不明の土地をなくしていくための対策

ではなぜ、相続登記が義務化されるのだろう?

空き家が管理されずに放置されることで、近隣トラブルや衛生上、防犯上など
さまざまな問題を引き起こす「空き家問題」が話題になった。政府は、こうし
た迷惑空き家に対して、2014月11月に「空家等対策の推進に関する特別措置
法」(空家対策特別措置法)を成立させ、私有財産である住宅に行政が関与で
きるような対策を取った。

一方で、放置された空き家や土地に対して管理を求めたり処分したりしようす
るときに、所有者が分からないという問題も浮き彫りになった。何代にもわた
って相続登記がなされていないと、まずは最後の名義人からその相続人たちを
探し出し、その相続人たちが他界していれば次の代に相続権が引き継がれるの
で、さらに次の代を探し……と、その土地の相続人の数がねずみ算式に膨れ上
がる。放置された土地の所有者を探すために多大な時間と費用が掛かることに
加え、土地を活用しようとした場合に相続人全員の合意を得るのは至難の業だ。

2017年に「所有者不明土地問題研究会」から最終報告が出されたが、そこには
「2016年時点の所有者不明土地の面積は約410万haで、九州本土の面積の約36
7万haをすでに上回る」という、衝撃的なデータが紹介された。その最終報告で
は、相続登記の義務化を含む、すべての土地の所有者が明らかになるた
めの施策や、活用されない土地を手放す仕組みをつくることなどが提言された。

こうした提言を受けて、政府は対策に着手し、不動産登記法の改正、民法等の改
正、相続土地国庫帰属法の新法制定などを行ったのだ。

法改正などによりどう変わる?何をしなければならない?

では、法改正などによって何が変わるのだろう?不動産の相続や登記などが、主
に次のように大きく変わることになる。

(1) 相続登記の義務化
不動産を取得した相続人は、そのことを知った日から3年以内に相続登記を行う
ことが義務づけられる。
正当な理由がないのにこれを怠った場合は罰則(過料10万円以下)がある。ただ
し、登記手続きの手間や費用を軽減するなどの措置も取られる。
(2) 住所等変更登記の義務化
登記をした名義人は、住所や氏名などの変更日から2年以内にその変更登記を行
うことが義務付けられる。
正当な理由がないのにこれを怠った場合は罰則(過料5万円以下)がある。
(3) 土地の所有権を放棄しやすい仕組み
相続したものの土地を手放したい場合は、一定の要件(建物が立っていない、土
壌汚染がない、権利関係に争いがないなど)を満たせば、国庫に返納できる。た
だし、審査手数料や10年分の管理料などを負担する。

このほかにも、管理不全や所有者不明の土地・建物について、裁判所が管理人を
選任して管理させたりその土地に不明な共有者がいる場合は残りの共有者で管理
できるようにしたりなど、土地の利用を図る方策も取られている。

2021年4月28日に公布されたこれらの法改正等は、原則として公布日から2年以
内に施行されるが、相続登記の義務化は公布日から3年以内、住所等変更登記の
義務化は公布日から5年以内に施行される予定となっている。

空き家を所有している人、今後に土地や住宅の相続が想定される人などは、相続
登記の義務化などを視野に入れ、今から準備をしておくのがよいだろう。その際
には家族で話し合ったり、その土地や住宅についてこ
れまでの経緯を知っている人から情報を集めたりすることも忘れずに。
                         「suumoジャーナル」