「人生最大の買い物」と言われている住宅(マイホーム)は、多くの人が
ローンを組んで購入しますが、最近はコロナ禍の収入ダウンによる”住宅ロ
ーン破綻”がマスコミで取り沙汰されるようになっています。
そもそも、国内における住宅ローンの貸出残高はどれくらいあるのでしょう
か。住宅金融支援機構の貸出し分を除いた、いわゆる純粋な金融機関による
貸出残高は約185兆円と見られます(2020年3月末、四半期で変動あり)。
185兆円と言われてもピンとこないと思いますが、日本の国家予算が約105
兆円ですから(2021年度は106兆円見込み)、その規模の大きさが分かるの
ではないでしょうか。
事件扱い”となった住宅ローンの破綻率と破綻予備軍
さて、こうした住宅ローンの破綻率はどれくらいだと思いますか?
結論から先に言うと、2%~4%です(参考資料:NPO法人「住宅ローン問題
支援ネット」、以下同)。金額にすると3.7兆円~7.4兆円です。少し幅が広
いのは、当該業界(主に金融機関)から正式データが公表されていないこと、
そして競売の範囲が広いためと見られます。
それでも、この公表値に基づけば、破綻率はザックリ約3%、金額にすると
約5~6兆円となり、かなり大きな金額です。
さらに、ここでいう「破綻」とは、単に返済が数カ月滞っているというレベ
ルではなく、完全に“事件扱い”された案件が対象です。この“事件扱い”とは、
返済不能に陥ったため、(住宅ローンの対象である)住宅が競売に掛けられ
たり、任意売却を迫られたりした案件を指します。
競売は裁判所から情報公開され、任意売却は信用機関のブラックリストに載
ります。事実上、世間に“住宅ローンが返済できませんでした”と公表するこ
とになり、多くの場合は自己破産の申請を余儀なくされます。
また、こうした“事件扱い”には至っていないものの、長期間の滞納や将来の
返済困難に陥った事例など、いわゆる“破綻予備軍”は前述した破綻件数の3
倍程度あると見られています。つまり、既に破綻済みの分を除いても、約
10兆円がいつ焦げ付いても不思議ではないということです。
ちなみに、住宅に次ぐ高級消費耐久財である自動車の場合、前述した“事件
扱い”と同じレベルの自動車ローン破綻比率、つまり、返済不能でクルマを
強制差し押さえされるレベルは0.3~0.5%程度と見られます。金額やロー
ン期間が異なるので一概に単純比較はできませんが、住宅ローンの破綻率
の高さが理解できましょう。
厳格な事前審査があるのに住宅ローン破綻は起きる
そもそも、住宅ローンを組む際(金融機関から見ると貸し付けの際)厳
格な審査が行われているはずです。確かに、一昨年に大きな社会問題と
なったスルガ銀行の不正な過剰融資事件など、個人向け融資を伸ばそう
とする金融機関は増えてきました。
それでも、低所得層など返済が滞る懸念がある人に、最初から住宅ロー
ンの融資する可能性は低いはずです。本来ならば、3%とか4%の破綻比
率は考え難いのです。しかしながら、現実には住宅ローンの返済に困窮
する債務者は後を絶ちません。
その要因として、住宅ローンを組んだ後に、外的要因(自営業者の会社
経営不振、投資運用失敗、ギャンブル等の浪費)、健康問題(病気、ケ
ガによる収入減)、職場問題(リストラ、転職の失敗、退職金の減額)
家庭問題(離婚、介護、年金減額)などによって、借入債務者の財政状
況が大きく悪化することが挙げられます。
しかも、返済が順調に進んでいたにもかかわらず、気が付いたら返済困
難に陥ってしまっていたケースが少なくないようです。今回の一連のコ
ロナ禍の影響で住宅ローン返済計画が大きく狂った人も少なくないはず
ですが、1年前には全く予想していなかったことだったのではないでし
ょうか。
「オーバーローン」になったときの金融機関は甘くない
住宅ローンの返済が滞り、いよいよ破綻が迫った時、多くの債務者が“最
後の一手”として考えるのが売却による返済です。つまり、今現在住んで
いる自宅を売却して、その売却金額を返済に充てるというものです。しか
し、そうは問屋がおろさない場合があるのです。
最大の理由は、その自宅に(金融機関の)抵当権が設定されているからで
す。抵当権が設定されたままでは不動産を(勝手に)売却できません。
自宅の売却には金融機関の許可が必要になります。
ここで重要になるのが、「アンダーローン」と「オーバーローン」という
状況です。簡単なモデルで考えてみましょう。
たとえば、何らかの理由(リストラや病気、今回のコロナ禍等)によって
収入が激減し、住宅ローン残高3,000万円の返済が難しくなったとします。
この時、自宅の評価額(=市場取引額。相続税評価額ではない)が3,500
万円の場合、金融機関は抵当権を抹消して売却を承諾するでしょう。なぜ
ならば、金融機関は残額3,000万円を回収できるからです。これが「アン
ダーローン」です。
しかし、もし自宅の評価額が2,500万円の場合、単純に売却しても金融機
関は残債3,000万円を回収することはできず、▲500万円の不良債権が発
生します。
金融機関は、この不足分▲500万円の返済を繰り延べたり、新たなローン
として設定したりするような生ぬるいことはしません。自宅は強制的に競
売に掛けられ、自己破産を迫られます。あるいは任意売却の手続きが取ら
れますが、いずれにせよ抵当権設定者である金融機関の主導で行われます。
これを「オーバーローン」と称します。“まさか、そこまではしないだろ
う”、“一定の猶予期間はあるだろう”という希望的観測は甘いと言わざる
を得ません。
ローン残高と自宅の評価額を常に注視すべき
こうした「オーバーローン」に陥る可能性を少しでも低くするためには、
常日頃からローン残高と自宅の評価額を把握しておくべきでしょう。自
宅の評価額に関しては、様々なサイトで大まかな額を調べることが可能
です。
ただし、この評価額(=市場取引額)は、買い手と売り手の需要で決ま
りますから、投資家のニーズ、大きな経済変動、自然災害などで常に変
動します。
特に、最後の自然災害による影響は、一定のタイムラグを置いてから表
面化するため注意が必要です。ある日調べてみたら、自宅の評価額が考
えていた以上に下落していることは決して珍しくないのです。
住宅ローンの返済が順調に進んでいて、この先も滞る懸念がないならば
こうした心配は無用です。
しかしながら、前掲の既に破綻した2~4%の借入債務者も、最初から破
綻のリスクに直面していたわけではありません。ある日気が付いたら、
住宅ローンの返済が困難に陥っていたというパターンが多いのです。そ
して、これは破綻済みの3倍程度いると見られる破綻予備軍も同様です。
何の懸念もなく順風満帆な人でも、ぜひ一度調べて見てください。今回
のコロナ禍のような危機が突然やって来ても対処できるように。
「LIMO LIFE&MONEY」